最終更新:2000/4/16
 
File No. 11 研究テーマ
萩尾望都:母と子の物語り --03

【1980年代作品より】

母と子の関係が物語に関わっているものをざっと見ていく。

case18 『訪問者』
1981年 「トーマの心臓」のオスカーの幼少時の物語。
オスカーの母ヘラは美しく非常にもてる女性であったが、夫婦仲がこじれ始めてから妻としても母としても現実に追われ厳しい性格になっていた。
オスカーは母の不実の子である事実を知り、かつ、母を殺したのが父であるのも知りながらも、父を庇い通そうとした。彼にとっては両親の仲の良かった頃の美しい思い出があり母に似た自分の顔を自慢するあたりにも亡き母への愛が伺える。
☆亡くなった母(不実の母)
★『訪問者』(1981年初版・ハードカバー)にあるあとがきにはこの作品を描くに至った気持ちの経過が書かれているが、中に、ご両親との確執に触れられている。
親と子はどうして分かり合えないのかについて悩み、心理学関係の本もよく読んだということなど。

case19 『メッシュ』シリーズ
1981年〜
〜メッシュの父と母との関係〜
1981年 「メッシュ」
メッシュは12才になるまで息子として認めて貰っていなかったことを実の親であるホルヘスのセリフで知る。その時から彼は父を憎んでいた。そして父として息子を思い通りに支配ようとする彼に反発し、父殺しを企てる。
父殺しをとめ、メッシュを救ったのはミロン(救いキャラ・グラン・パの系譜)。
1984年 「シュールな愛のリアルな死」
母は精神的に後退した中で、息子を産んだ事実を認めておらず、母の中にメッシュは存在しない。「かわいそうなママ」の母親や、夢の中の住人として「はるかな国の花や小鳥」のエルゼリのような現実逃避型でもある。
☆存在を認めない母
〜ミロンの母〜
1983年 「耳をかたむけて」
救いキャラ、ミロンの母は容貌は劣るが頭が良く、強くたくましい母だった。
未婚で息子を産んだことで風当たりも強かったが負けずに生き、ミロンの支えだった。この強さは「ローマへの道」の母につながっていく。
☆容貌は悪いが強くたくましい母
〜その他〜
1982年 「千の矢」
メッシュに絵のモデルを頼んだエトゥーと母の関係。
夢見るように美しい母は、エトゥーの父とは別に本当に愛している男がいた。
母親べったりのエトゥーとエトゥーの存在に縛られる母。
最後は仮の母殺しともいうべき矢が放たれ、両方がそれぞれに自立する形になる。
☆美しい母(不実)
1982年 「苦手な人種」
メッシュが入った店で知り合うことになったルーとポーラの姉妹。
姉妹の母は、美しく誰からも愛される姉と容貌に恵まれない妹を常に比較し、比較することでルーの性格を歪めている。
☆理解のない母
1982年 「謝肉祭」
ルシアンの父は上流社会の人だったがスキャンダルを残して死んでしまった。
父のような立派な人間にならねばならない、という一方、父の残したスキャンダルを否定する気持ちの強さから、ルシアンは自分自身を追いつめていく。
(「残酷な神が支配する」のグレッグにつながっていく)

case20 『エッグ・スタンド』
1984年 ラウルは父に捨てられた母の、自分への愛に窒息しそうになって、母を殺す。
息子に依存しようとする母の形としては「トーマの心臓」のエーリクの母、「残酷な神〜」のジェルミの母の系譜。
☆過剰な愛をむける母(母殺し)

case21 『フラワー・フェスティバル』
1988〜1989年 みどりの母は継母。彼女の「あなたは女の子なんだから普通に大学に行ってお見合いして結婚するのが普通のことでしょう」というセリフは「毛糸玉にじゃれないで」の母と重なるが、「毛糸玉〜」の方は進学までを問題にしていて逆に娘の方が普通の結婚=母になることを意識したのに対して、こちらでは、普通ではない将来=バレリーナという特殊な職業をみどりが真剣に意識し、主張している。
そして「親じゃないくせに私の意志をしばらないでよ」と切り札で切り返してしまっている。娘の将来への希望と親の望む形との確執、という点では共通。
更に、みどりの義兄、継母の実子である薫との関係。義兄に子供っぽい恋愛感情を抱くみどりと継母は薫を巡っても秘かな対立を持っている。
☆無理解な母

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研究員:天野章生 / 作成日:2000/2/18

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