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No. 3-1 研究テーマ
ペンは走り、コマは割られた!
萩尾ジェットコースター版“メリーベルと銀のばら”
〜「メリーベルと銀のばら」加筆検証を通して萩尾・画面構成の魅力に迫る〜
漫画における「画面構成」や「ペンタッチ」、そして「絵による語り方のスタイル」(文章における文体というもの)が一人の作家の作歴において、どんなふうに変遷し、かつ熟成されていくか。萩尾望都のポー・シリーズは、その不思議や奇跡を味わえる最もわかりやすいサンプルである。シリーズ第1作「すきとおった銀の髪」〜第4作「ポーの一族」(本編)まで、そしてそれから第6作「小鳥の巣」でひとつのスタイルの頂点を極め、そこからまた変化して第7作の「エヴァンズの遺書」へ……という流れを追ってみてほしい。一見しただけでも作品ごとにその絵柄や画面構成が、微妙ではあるが確実に異なっていることがわかるだろう。
そういった萩尾望都の絵による語り方の変化のただなかに「メリーベルと銀のばら」は位置している。しかしこの作品は発表時よりかなり後の加筆及びページの再構成によって、そういった筆致変遷のサンプル作品としては非常にわかりづらいものとなっている。
「メリーベルと銀のばら」は、“ポー・シリーズ”の第5作として1972年12月から73年2月にかけて発表された作品である。もともとは“過去”“過去の過去”“現在”という3部作として構想が練られていた【ポーの一族】であるが(注1)、「メリーベルと銀のばら」はこの3部作のうちの“過去の過去”という位置づけにある。初出は3話形式で各31ページ、総計93ページで発表されたが、最初の単行本化(小学館フラワーコミックス/『ポーの一族』第2巻/1974年7月1日初版発行)の際に、65ページもの大幅な加筆が行われている。この加筆については、雑誌掲載時にページ数の関係で削ったエピソードを挿入したということらしい(「ポーの一族」や「小鳥の巣」が4話形式なので、元々は「メリーベルと銀のばら」も4話で組まれていたのであろう)。しかし、今回は物語やエピソードの完成度を問題にしたいのではない。あくまでも、絵の面から追いかけていることをおことわりしておく。
―この加筆はいつ行われたか?―
下記に検証、推測してみよう。
●加筆された部分は、単行本が発売された時期の絵柄によく似ている。絵柄を言葉で表すのはなかなか難しいのでその時期の作品を参照してほしい。単行本発売時期(フラコミ2巻は1974年6月20日発売)は、萩尾は週刊少女コミックにて「トーマの心臓」を毎週連載していた。→【「トーマの心臓」週コミ掲載状況】参照
●74年別コミ7月号掲載の大島弓子「海にいるのは‥」に、“同時期カンヅメだった”(注2)という萩尾が手伝って描いたカット(学内の建物や木々などの背景や人物など)が多数ある。この大島作品の執筆時期は7月号(6月13日発売)ということから、カンヅメの時期を推測すると5月中旬〜下旬あたりではないか? フラコミ2巻の発売が6月20日であることから、原稿の入稿締切もほぼ同時期ではないかと思われる。この萩尾のカンヅメは、毎週連載であった「トーマの心臓」のためとは思いにくいので、その連載以外のなにかであることが推測される。
●当時のファンクラブ誌に“「ポーの一族」の単行本製作にあたって週コミが2週合併した時の2週間を使ってまとめました”と萩尾が語ったという記述がある(75年発行の“LOVE望都”会誌第1号のインタビューより)。この時期の週刊少女コミックの特大号は25/26号(これは日付だと6/16・23日号(5月24日発売))。25/26号の執筆部分はフラワーコミックス『トーマの心臓』1巻だと88-99Pにあたる。27号は2週間後の6月7日発売である。
以上のことより「メリーベルと銀のばら」の大幅な加筆が行われたのは、1974年5月中旬〜下旬の時期ではないかと思われる。これはこの作品の雑誌発表時期より1年半ほど後であり、作者のペンタッチや画面構成の手法等もかなり変化していたことは、その時期に該当する作品を比較するとかなり明確に推測される。
では、実際にどの部分が加筆なのか? 次のページに図解で一覧する。
注1: 小学館フラワーコミックデラックス『ポーの一族』特集号に詳しい。
注2: 大島と萩尾が“同時期カンヅメだった”事実は、『大島弓子選集4/海にいるのは‥』巻末のあとがきエッセイの記述より推測。
資料1)怪奇ロマンシリーズ『ポーの一族』全作品加筆状況リスト
(2001/4/7暫定版)
【第一期ポー・シリーズ】発表順 タイトル 発表年 掲載月
()内は
脱稿日付掲載誌 初出掲載
ページ数
加筆状況フラワー
コミック作品集 叢書 文庫 P(総数) P(総数/うち増補ページ数)01 「すきとおった銀の髪」 72年 3月号
(72.1.3)別冊少女コミック 349-364
(16p)1巻
175-190
(16/0)1巻
173-188
(16/0)1巻
3-18
(16/0)- 02 「ポーの村」 7月号
(72.5.16)別冊少女コミック 391-414
(24p)1巻
127-150
(24/0)1巻
125-148
(24/0)1巻
19-42
(24/0)03 「グレンスミスの日記」 8月号
(72.6)別冊少女コミック 391-414
(24p)1巻
151-174
(24/0)1巻
149-172
(24/0)1巻
43-66
(24/0)04-1 ―はるかなる一族によせて―
「ポーの一族」第1話
(※この作品より“怪奇ロマンシリーズ”と銘打たれる)9月号
(72.7.19)別冊少女コミック 385-415
(31p)1巻
5-35
(31/0)1巻
3-33
(31/0)1巻
67-97
(31/0)04-2 ―はるかなる一族によせて―
「ポーの一族」第2話10月号
(記述なし)別冊少女コミック 391-421
(31p)1巻
36-65
(30/-1)
※見開きの扉ページ右1ページが削除。1巻
34-63
(30/-1)1巻
98-127
(30/-1)
※見開きの扉ページ右1ページが削除。04-3 ―はるかなる一族によせて―
「ポーの一族」第3話11月号
(記述なし)別冊少女コミック 417-477
(31p)1巻
66-95
(30/-1)
※p66は加筆。p69とp70の間に見開きのタイトルページがあったが削除。1巻
64-93
(30/-1)1巻
128-157
(30/-1)04-4 ―はるかなる一族によせて―
「ポーの一族」最終回12月号
(72.10.20)別冊少女コミック 415-445
(31)1巻
96-125
(30/-1)
※p99は加筆。p98とp100の間に見開きのタイトルページがあったが削除。p3にある扉がその右ページ部分。1巻
94-123
(30/-1)1巻
158-187
(30/-1)05-1 ―はるかなる一族によせて―
「メリーベルと銀のばら」第1話73年 1月号
(記述なし)別冊少女コミック 453-483
(31)2巻
5-47
(43/+12)2巻
3-45
(43/+12)1巻
189-231
(43/+12)05-2 ―はるかなる一族によせて―
「メリーベルと銀のばら」第2話2月号
(記述なし)別冊少女コミック 419-449
(31)2巻48-111
(64/+35)
※扉の見開き2Pは削除(64P-31P+2P=加筆35P)2巻
46-109
(64/+35)1巻
232-295
(64/+35)05-3 ―はるかなる一族によせて―
「メリーベルと銀のばら」最終回3月号
(73.12とあるが73.2の間違いでは)別冊少女コミック 417-447
(31)2巻112-162
(51/+20)
※扉はp116,117
(ト書きなし)
(51P-31P=加筆20P)2巻110-160
(51/+20)1巻296-346
(51/+20)06-1 ―はるかなる一族によせて―
「小鳥の巣」第1話4月号
(記述なし)別冊少女コミック 457-487
(31)3巻5-35
(31/0)3巻75-105
(31/0)2巻3-33 06-2 ―はるかなる一族によせて―
「小鳥の巣」第2話5月号
(記述なし)別冊少女コミック 417-447
(31)3巻36-65
(30/-1)※扉の見開き2Pは削除(31P-2P+加筆1P(p36部分が加筆)=30P)
3巻106-135
(30/-1)2巻34-63
(30/-1)06-3 ―はるかなる一族によせて―
「小鳥の巣」第3話6月号
(記述なし)別冊少女コミック 333-372
(40)3巻66-108
(43/+3)
※カラー扉1Pは削除(コミックスの表紙に使用)。3巻136-178
(43/+3)2巻64-106
(43/+3)06-4 ―はるかなる一族によせて―
「小鳥の巣」最終回7月号
(73.6)別冊少女コミック 417-447(31) 3巻
109-139
(31/0)3巻
179-209
(31/0)2巻
107-137
(31/0)
発表順
タイトル
発表年
掲載月
()内は
脱稿日付掲載誌
初出掲載
ページ数
フラワー
コミック作品集(新)
小学館叢書
小学館文庫
P(総数)
07-1
「エヴァンズの遺書」前編
※期待のシリーズ ポーの一族新企画で登場!
(74.10?)別冊少女コミック
(4色扉)、
305-343
(40)
4巻
5-43
(39/-1)
※連載時の扉は削除。2巻
161-201
(41/+1)
※連載時の扉は削除。p161扉 は雑誌では12月号掲載の予告イラスト。p162は加筆。3巻
3-43
(41/+1)-
07-2
※ポーシリーズより エドガーとメリーベルの物語
(74.11)別冊少女コミック
287-326
(40)
(4色/扉+本文1P)4巻
44-82
(39/-1)
※連載時の扉は削除。2巻
202-240
(39/-1)
※連載時の扉は削除。3巻
44-82
08
―怪奇ロマン―
「ペニー・レイン」
※ポーシリーズより エドガーとアランの物語5月号
(75.3)別冊少女コミック
(40)
(4色/扉+本文1P)4巻
83-122
(40/0)3巻
3-42
(40/0)2巻
139-178
09
怪奇ロマンポーシリーズより エドガーとアランの物語
「リデル・森の中」
6月号
(75.4)別冊少女コミック
(16)4巻
123-138
(16/0)3巻
43-58
(16/0)3巻
133-148
10
「ランプトンは語る」
※怪奇ロマンポーシリーズ エドガーとアランの物語7月号
(75.5)別冊少女コミック
(50)
巻頭カラー(4色/4P+2色/8P)4巻
139-188
(50/0)4巻
59-108
(50/0)3巻
83-132
11
「ピカデリー7時」
※壮大な叙事詩…怪奇ロマン ポーシリーズ エドガーとアランの物語!!8月号
(75.6)別冊少女コミック
(31)5巻
5-35
(31/0)4巻
3-33
(31/0)2巻
179-209
12
ポーシリーズより
「はるかな国の花や小鳥」
※燃える少コミよみきりパレード(7)
37号(9/7日号)
(75.7)週刊少女コミック
199-231
(33)
4色/4P扉+2色/1P5巻
37-69
(33/0)
※p61とp65の左の縦のスペースは連載時には広告が入っていた。1巻
189-221
(33/0)
※p213とp217の左の縦のスペースは連載時には広告が入っていた。 2巻
211-243
13
「ホームズの帽子」
※怪奇ロマンポーシリーズ エドガーとアランの物語11月号
(75.9)別冊少女コミック
(24)5巻
71-94
(24/0)4巻
35-58
(24/0)3巻149-172
14
「一週間」
※怪奇ロマンポーシリーズ エドガーとアランの物語
12月号(75.10)
別冊少女コミック
(16)5巻
95-110
(16/0)3巻
59-74
(16/0)2巻245-260
15-1
怪奇ロマンポーシリーズ
「エディス」前編
※小学館漫画賞受賞記念作
全国の読者の声にこたえて 怪奇ロマン ポーシリーズここに再開!76年
4月号(76.2?)
別冊少女コミック
(4色扉)、273-292
(21)5巻
111-132
(22/-1+2=+1)※連載時の扉は削除。代わりに中編の扉とp112が増補。4巻
109-130
(22/-1+2=+1)※連載時の扉は削除。代わりに中編の扉とp110が増補。3巻
173-194
15-2
怪奇ロマンポーシリーズ
「エディス」中編5月号
(76.3?)別冊少女コミック
69-99
(31)5巻
133-161
(29/-2)
※連載時の扉と次のページが削除され、p111-112に移動。4巻
131-159
(29/-2)
※連載時の扉と次のページが削除され、p109-110Pに移動。 3巻
195-223
15-3
怪奇ロマンポーシリーズ
「エディス」後編
※はるかなる一族によせて――エドガーとアランの物語6月号
(76.4)別冊少女コミック
101-131
(31)5巻
162-191
(30/-1)
※連載時の扉は削除。4巻
160-189
(30/-1)
※連載時の扉は削除。 3巻
224-253
●タイトルには、初出時の肩タイトル(シリーズ名)と惹句(柱などに書いてある言葉)を付加した。
●脱稿日付は、ラストページの萩尾自身による手書きの記述を抜き出している。日がないものは、叢書の日付を参考にした。?がついているものは、推測。
●加筆状況に記載のページは、増えたページを単純計算してのものであり、加筆部分があるページの総計ではない。
研究者:卯月もよ、小西優里 / 作成日:2001/4/8 / 表修正:2004/4/29