萩研的『残酷』支援計画2001 『残酷』をもっと読み込むために/巻末脚註・図書の家版
   
 
『残酷』をもっと読み込むために
巻末脚註・図書の家版/データ集I 1巻〜6巻まで

担当研究員:天野章生
初回アップ:2001/4/15
最終更新:2002/3/31

データ集II  7巻〜17巻まで


  no.
項目
内容
出典
引用及び参考出典
備考
 
1,4
ウィリアム・バトラー・イェイツ 「残酷な神が支配する」 【自伝】(ニューヨーク1953年、およびロンドン1955年)p348-9 『自殺の研究』アルヴァレズ著/早乙女忠訳 新潮選書
巻頭・p207
 
Yeats(1865-1939)アイルランドの詩人でその作品(詩や劇)においても現実的な生活においても、祖国の風土、政治、神話感受性から離れることはなかった。 しかしカミュの「不条理」の観念は。実際には今後の作品を書くための骨組みではなく、19世紀末以来の輝かしい芸術作品を解明するための理論だった。イェイツは、すでに1896年、ジャリの笑劇『ユピュ王』の初演をみたときに、在来の観念とは異質な新しいものを感じとっていた。
「ステファーヌ・マラルメのあとに、ポール・ヴァレリーのあとに、ギュスターヴ・モローのあとに、現代芸術の微妙な色彩といらだつリズムのあとに、コンダーの真珠光のような色のあとに、あと何が可能だろうか。やがて残酷な神が支配する。」
ある意味で20世紀芸術の全体が、現世の残酷な神にささげられ、この神は同族とひとしく、血の生け贄を受け栄えてきた。・・
  自殺について具体的なエピソードをはさみながら、文学との関係を理論的に考察した本。

「自殺は時代や個人で千差万別であり、万能の妙薬はない。解決法としては、その人間の苦しい体験に対して抱く共感と理解である。核戦争による全人類の自殺の可能性のある現代に人間を考え直すのが本書である」著者

*萩尾さん自身の説明の中で「自殺の研究」に引用されていた、とあった。左記の「内容」で紹介した太字部分がアルヴァレズの引用したイェイツの文章。

*本書の最初に、著者の友人であり、女流詩人シルヴィア・プラースが自殺に至るまでのケースが詳細に語られているが、彼女の自殺の方法は「ガスオーブンに首をつっこむ」というものだった。この方法は、サンドラが自殺未遂した時の場面を思い出す。


'ZANKOKU' Support Plan 2001
 
2
ウィリアム・ワーズワース
「発想の転換をこそ」 【抒情歌謡集】(LyricalBallads,1798) 『イギリス名詩選 平井正穂編』p.153岩波文庫ISBN4-00-322731-x  
    Wordsworth(1770-1850)浪漫派を代表する自然詩人である。

 

さあ、君、立ち上がるのだ!君の本を捨てるのだ!
さもないと、君の腰はほんとに曲がってしまうぞ。
立て、立ち上がるのだ!もっと明るい顔をしたらどうだ。
なぜそんなに刻苦勉励して本を読むのだ?

山の頂きにさしかかった太陽が、
爽やかで柔和な光を広々とした
緑の野原一面に漲らせ、
夕陽特有の黄金色ですべてを染めている。

なるほど、本か!本を読むのは骨が折れるし、きりがない。
それよりも外に出てきて紅ひわの鳴き声を聞くがいい、
-その歌声のなんと快いことか!誓ってもいい、
本に書かれている以上の叡智がそこにある。(以下略)
【抒情歌謡集】は詩人コウルリッジとの共著。浪漫主義の詩の本質を鮮明に示すものとして文学史上不朽の位置を占めている。 左記は平井正穂 訳 *作中の訳は萩尾さんご自身のモノと思われる。

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3
チャールズ・ラム
「昔の懐かしい顔」 【無韻詩集】(Blank Verse,1798) 『イギリス名詩選 平井正穂編』p.175岩波文庫ISBN4-00-322731-x  
Lamb(1775-1834)イギリスの随筆文学の傑作『エリア随筆』(Essays of Eria,1823,33)の著者として有名。 私には遊び仲間もいたし、親しい友だちもいた、
子供の頃の、楽しい学校時代の話だが、-
でも、もうみんな消えてしまったのだ、あの昔の懐かしい顔は。

つい先頃まで笑い興じもした、大騒ぎもした、
遅くまで酒も飲み、夜更かしもした、気のおけぬ連中と、-
だが、彼女の家の扉は閉ざされ、会うことも許されなかった。
ああ、もうみんな消えてしまったのだ、あの昔の懐かしい顔は。(以下略)
【無韻詩集】は友人ロイドとの共著 左記は平井正穂 訳 *作中の訳は萩尾さんご自身のモノと思われる。
 
5
ロバート・ヘリック
「時を惜しめと、乙女たちに告ぐ」 【ヘスペリデス】(Hesperides,1648) 『イギリス名詩選 平井正穂編』p.65岩波文庫ISBN4-00-322731-x  
Herrick(1591-1674)英国教会の聖職者であり、詩人。 まだ間に合ううちに、薔薇の蕾を摘むがいい-
昔から時間は矢のように飛んでゆくものなのだから。
ここに咲いているこの花も今日は微笑んではいるが、
明日には死に果ててゆくにきまっている。

巨大な灯のように大空に輝いている太陽も、
高く昇れば昇るほど
それだけ早く旅路を終わり、
忽ち西に沈んでゆく。(以下略)
この主題は伝統的な'carpediem'(今日という日を楽しめ)というテーマのヴァリエーション。 左記は平井正穂 訳 *作中の訳は萩尾さんご自身のモノと思われる。
 
6
シューベルト
「菩提樹」 歌曲集【冬の旅】 『フィッシャー・ディースカウ シューベルト歌曲のすべて』東芝EMI (DISC2)  
Franz Schubert (1797-1828)オーストリアの作曲家、歌曲王。『魔王』『冬の旅』『未完成交響曲』他 私は、その幹に
数々の好ましい言葉を刻んだ、
うれしい時も、悲しい時も、
私の心はその樹のもとにひかれた。

私は今日も深い夜のさなかに
その傍を通らねばならなかった。
暗闇の中ではあったけれど
私はじっと眼をつぶった。

すると、私に呼びかけるように
枝がさやさやと音を立てた、
「友よ、私のところへおいで、
ここにお前の安らいがある」と。(以下略)
シューベルトの死の前年に書かれた作品。ヴィルヘルム・ミュラー(1794-1827)の詩に付曲した24曲からなる歌曲集。 フィッシャー・ディースカウ(バリトン)

ジェラルド・ムーア(ピアノ)

8枚組CD/DISC2が「冬の旅」CD解説及び対訳:西野茂雄

*作中の訳は萩尾さんご自身のモノと思われる。*作詩はミュラー。この名前は『トーマの心臓』に出てくる校長先生の名前に使われている。また歌曲集「冬の旅」というのに因んで過「秋の旅」という作品が初期にある。萩尾さんはこの歌がお好きなのかもしれない。

*このシーンは繰り返し思い起こされる重要な箇所である。

 
7
チャイコフスキー
「眠れる森の美女」      
Tchaikovsky(1840-1893)ロシアの作曲家。それまでの職人的なバレエ音楽を一変させた彼のもたらした功績は大きい。 ロシアの振付家・プティパに依頼されて作曲された、チャイコフスキー三大バレエ音楽の一つ。童話「いばら姫」を元にプティパが脚本を書いた。30曲からなる組曲、上演時間3時間。   *真実に目を瞑り見ようとしないサンドラに「眠れる森の美女」というのはなるほど「よく似合っている」
 
8
エドガー・アラン・ポー
「黒猫」   『黒猫・黄金虫』ポオ著/佐々木直次郎訳 新潮社   
    Edgar Allan Po(1809-1849)詩人、小説家 優しく穏やかな性質の男には美しい妻がいて黒猫を一匹飼い、可愛がっていたが、酒に溺れ気質が一変し、残忍にも可愛がっていた筈の黒猫を片目をえぐり出し首を絞め絞首刑に見立てて吊して殺してしまう。その後男は妻をも諍いの果てに殺し、地下室の壁に塗り込めて隠す。   *作中のあらすじは萩尾さんご自身のモノ。美しい妻を得て穏やかで幸せな家庭を築いていた男が気質が一変し、愛していた妻を殺してしまう、というところや、絞首刑に擬して猫を吊すというところなど、グレッグに被らせたイメージは多い。絞首という方法は、グレッグが妻=リリヤに課したモノであり、項目24で挙げた「アンナ・ボレーナ」にも被さってくる。

尚、作者エドガー・アラン・ポーの名前は『ポーの一族』でも使用されていることで萩尾ファンには馴染み深い。 


'ZANKOKU' Support Plan 2001

 
9
アダン・Z・オーソン
「十代の心身症」      
    架空?) (架空?)     キャスリーン・マッコイ「どうすればいいか10代の心身症」晶文社刊
という本
があるが未確認(要確認)参考にされたかどうか?

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10
ロバート・バーンズ
「赤い薔薇」 【スコットランド歌曲集】(The Scots Musical Museum,1796) 『イギリス名詩選 平井正穂編』p.147岩波文庫ISBN4-00-322731-x  
Burns(1759-96)はスコットランドの国民詩人。農業を営みつつ滋味豊かで天真爛漫な作品を書いた。 俺の恋人よ、お前は赤い薔薇だ、
六月にぱっと咲いた赤い薔薇だ。
お前はまるで甘い音楽だ、
見事に奏でられた甘い音楽だ。

お前の美しさに負けまいと、
俺の命も命がけ、おお、俺の可愛い恋人よ!
いつまでも俺の心は変わりはしない、
たとえ海という海が干上がろうと。(以下略)
【スコットランド歌曲集】に寄せた「古き良き時代」(Auld Lang Syne)の中の一遍。 左記は平井正穂 訳 この詩の最後の「俺は必ず戻ってくる、おお、俺の恋人よ、千里の彼方からでも戻ってくる!」というのがグレッグにハマりすぎて怖い。

*作品中の翻訳は萩尾さん自身によるものと思われる。ジェルミが読めば、ということで柔らかい言い回しになっているが、バーンズであれば無骨な言い回しの方が本来の持ち味なのかもしれない。

 
11
バッハ
「ヨハネ受難曲」   「バッハのヨハネ受難曲その歴史的背景」ホルスト=ペーター・ヘッセ・村田千尋訳/CD解説書  
J.S.Bach(1685-1750)ドイツ、バロック最大の作曲家、オルガニスト。「大バッハ」と呼ばれる。 「この曲には4種類の稿が存在する(バッハは演奏の度に少しづつ改稿したらしい)。制作は1724年の灰の水曜日(復活祭前46日目、謝肉祭の翌日)から聖金曜日(復活祭直前の金曜日)まで6週間に及ぶ四旬節の間に作られたと思われる。」

誰がこのテキストをまとめたかについては不明。「『ヨハネによる福音書』の代8,19章からなり、そこに『マタイによる福音書』から2カ所が挿入されている。」

初演は1724年の聖金曜日、4月7日ライプツィヒの聖ニコライ教会。 *バッハは他の箇所でも使われているが、フーガが重要なテーマになっている。「ヨハネによる福音書」と「マタイによる福音書」との大きな違いは、「イエス・キリストの受難の道を上昇として描いている!」だそう。音楽もそれに伴い、上昇の螺旋構造を持つとされる。そのことは物語全体にどういう暗示を与えているのか(いないのか)。しかし、このクリスマスにジェルミはイエスさながらにむち打たれこの時点では、少なくとも宗教による救いはない。
 
12
ヘンデル
「メサイア」   「ヘンデル オラトリオ「メサイア」全曲」(1754年捨て子養育院版)(ロンドン・レコード(株))解説:永田仁  
Handel(1685-1759)

ドイツ(ハレ)生まれの作曲家。オペラ「リナルド」(Rinaldo,1711)「水上の音楽」(Water Music Suite,1717)

ヘンデルの最高傑作としてのみならず、古今のオラトリオの最高傑作と評される。チャールズ・ジェネンズ(Charles Jennens 1700-1773)のテキストを元に、三部構成-53曲からなる。制作は1741年8月22日〜9月14日。このテキストの主題は、「イエスの生涯そのものを主題としているのではなく、そうした生涯のできごとを通して、旧約聖書に預言された救い主(メシア)の来臨と、この世の救いの成就がさし示されているのである。」「第1部は救い主(メサイア)の来臨によって、世の救いが成就するという旧約の預言と、そうした神の計画の実現、第2部はイエスという犠牲による救いの成就と、それを拒否する人間の完全な敗北、第3部は救い主イエスによる死の克服と、それによってもたらされた永遠の生命に対する感謝と賛美で、各部とも聖書を通して神の真理を指している。」 初演は1741年4月13日、フィッシャブル・ストリートのニュー・ミュージック・ホール。 ジュディス・ネルソン(ソプラノ1)エマ・カークビー(ソプラノ2)キャロライン・ワトキンソン(コントラルト)ポール・エリオット(テノール)ディヴィッド・トーマス(バス)オックスフォード・クライスト・チャーチ聖歌隊指揮:クリストファー・ホグウッド *クリスマスに演奏される曲目としてバッハとともに使われている。神の栄光を頌える「ハレルヤ」はこの後も作中に何度も出てくるが、ジェルミの苦悩に対してあまりに無力・皮肉である。『トーマの心臓』のラストが"神と向かい合う"ということで終わったのに対して、この作品でのクリスマスの扱われ方は示唆的である。(イースターも同様。)
 
13
ハレルヤ,グロリア 
       
*ハレルヤ-メサイア44曲(コーラス)(ヨハネ黙示録19章、11章5、19章16)* *神を頌える歌を口にしながらはりつけられむち打たれるジェルミの構図に注意したい。

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ガレ
    『光の魔術師-エミール・ガレ 』鈴木潔 著ISBN4-09-606017-8   
Emiile Galle(1846-1904)

フランス北東部ロレーヌ地方ナンシーに高級ガラス器と陶磁器販売店経営のシャルル・ガレを父として生まれる。

ガラス・陶磁器の製作を父の後継として携わったガレは植物学、哲学、詩や文学の高い教養を元に個性的な作品を生みだし続けた。1878年のパリ万博では数々の賞を受賞し、一躍その名を知らしめた。当時のジャポニズム、象徴主義の先駆者として、ガラス・陶磁器の世界で綺麗なだけではない芸術作品としての価値を高めた。現在も尚、その作品は高く評価される。   ガレの作品と生涯を図版を多く紹介しながら解説した本。

p71より引用。

「個体は死んでも世代をこえて伝えられる生命の力強い連続性、いうならば死と再生の輪廻を象徴することに重点がおかれてる点です」

*ガレの製品に見られる象徴的なテーマとして「生・死・復活」があるという。

グレッグの扱ってる製品としてガレが出てくるのは極めて自然だが、"死と再生の輪廻"というテーマ性は萩尾作品とも馴染み深い。作者の好みの反映としても興味深い。

 
15
「WILDLIFE」
       
アメリカ合衆国公益法人「ナショナル=ワイルドライフ=フェデレーション」発行の自然保護啓蒙誌に「WILDLIFE」というのがある。作中、ジェルミが持っているものと同じモノはまだ確認出来ていない。     *日本版も発行されていたが、1984年9月で休刊。(それらしい表紙を創作された可能性もあるし、全く同じモノが存在するかもしれない。)
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