File No. 03 研究テーマ |
なぜ彼女はすぐ足を上げたがる?〜萩尾的“ダンス表現”の系譜1969-2000〜 |
「なぜ彼女はすぐ足を上げたがる?」 その後「24年組」とまとめられた少女漫画家たちの70年代の初期から半ばまでの作品には、物語の前後の脈絡なくなぜか突然ミュージカルに突入といった風情の「踊りたがる人物」が多く登場しました。そのミュージカル漫画描きの筆頭ともいえるのが萩尾望都で、当時のファンの多くは挿入されるダンスシーンを楽しみながら自然にその世界になじんだものです。しかし、当時の創作者が大きな影響を受けていたであろうハリウッドなどのミュージカル映画も遠いものとなった今日、こういった突然踊りだす場面というのは、かなり違和感を感じさせるものなのかもしれません。 ここでは萩尾デビュー作品から30年間の作品でダンスをしている、もしくはそれに準じる部分のある漫画作品を拾ってみました。 「なぜ、初期作品にはダンスシーンが多く見られるのか?」 もともと動きのある少年漫画の影響を多く受けている萩尾作品ですが、初期においては少女漫画的に寂しくなりがちな絵柄を補うために、画面やコマ割を派手に楽しく動かす手段として登場人物たちが踊ることを取り入れたのではないかという推論をたててみました。 |
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デビュー作「ルルとミミ」では手塚治虫的な大量の動きのあるモブシーンが描かれ、次作「すてきな魔法」ではトランプのカードが画面で踊り、物語を導きます。この短編(小学館作品集1巻「ビアンカ」所収)では49ページ最後のコマに歌とも詩ともモノローグともとれる「地の文」が現れ、そこから見せ場である次ページの二人がふんわりと踊っているシーンにつながります。そのたった2コマで、それまで普通の物語であった流れが一気に萩尾的ミュージカル世界に突入するのです。全くこれは萩尾マジック=「すてきな魔法」。こんな初期に既に独自の手法が完成されているのには驚きです。 そんな風に始まった萩尾作品のダンス表現ですが、バレエやフィギュアスケートというようにダンスをメインテーマに設定する作品というのは初期には意外に少ないのです。素材としてスケートを扱った「ベルとマイクのお話」(71年)も、スケートは重要ではありますが小道具にすぎません。 積極的に足を上げたがる(見せたがる)少女といえば、「ジェニファの恋のお相手は」のジェニファに続き、SF作品「精霊狩り」のダーナが印象的ですが、精霊である主人公のダーナが月夜の晩に屋根の上を踊るように飛ぶシーンはまるでバレエポーズを見るようです。そして73年の「キャベツ畑の遺産相続人」「オーマイ ケセィラ セラ」「ハワードさんの新聞広告」の3作で、楽しさを全面に出す萩尾ミュージカルはひとつの区切りを迎え、75年の長編コメディ「この娘うります!」に繋がります。(このタイトルは67年のミュージカル映画「オリバー!!」[アメリカ/監督:キャロル・リード]の挿入歌「この子売ります (Boy For Sale)」からとられたのかもしれません) しかし、ミュージカル風な構成や踊るポーズの挿入こそはありますが、このあたりの一連の作品はダンス作品というよりも「女の子の綺麗な足」を見せるために踊っているといってもいいのかも。ごく初期の体操的なポーズとは違った、キュートなお色気の魅力がキャラクターに加わっているのが感じられます。それに、人物たちが踊ることで画面の華やかさを補わなくてもいいところまで作品の説得力が増し、完成されてきていたこともひとつの要因かもしれません。この後の作品は、意図的に踊ることをやめて静かに物語を語ることになっていきます。 では、萩尾作品が踊ることを忘れてしまったのか? というと、もちろんそうではありませんでした。ミュージシャンの甲斐バンドとの出会いと共に生まれた88年の「完全犯罪」、そして同年の「フラワー・フェスティバル」以降、本格的なバレエ作品が一連のシリーズとして始まったのです。そこでは踊ることが日常の人間たちが細やかに描かれています。 それでは萩尾望都的ダンスシーンの30年を一気に振り返る試み、作品集を片手に、どうぞご一緒に! ※69年〜71年までのダンス作品については考察も合わせてご覧ください。 それぞれの作品名からもリンクしています。 |
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ダンスシーンのある萩尾望都作品 -1969〜2000-
ポーチで少女が子犬と
ベルとマイクのお話★スケート/ダンス的ポーズのバリエーション
雪の子●決めポーズがレベランス(ダンスのおじぎ)的。
塔のある家
花嫁をひろった男
ジェニファの恋のお相手は★ダンスシーン
かたっぽのふるぐつ
かわいそうなママ
精霊狩り★精霊ダーナが空中を飛ぶシーンはまるでバレエ。女の子が足をやたらに上げたがる最初の作品か。
モードリン
小夜の縫うゆかた
ケネスおじさんとふたご
もうひとつの恋
10月の少女たち
秋の旅
白き森白き少年の笛●踊っていないが動きのあるポーズが多数。
11月のギムナジウム●踊っていないが動きのあるポーズが多数。
白い鳥になった少女
セーラ・ヒルの聖夜●踊っていないが動きのあるポーズが多数。
あそび玉
みつくにの娘●動きのある構図・構成で読む方の眼がダンスする作品。
毛糸玉にじゃれないで
すきとおった銀の髪[ポー・シリーズ]
ごめんあそばせ!●学園バンド漫画なのだが意外に人は踊らない不思議な作品。
ドアの中のわたしのむすこ●ミュージカル風ポーズが多い。だって[精霊狩りシリーズ]だから。
三月ウサギが集団で●扉でミュージカル風ポーズ。踊っていないが動きは激しい。
妖精の子もり●ラプンツェルの決めポーズが踊るよう。
六月の声
ママレードちゃん
ポーの村[ポー・シリーズ]
グレンスミスの日記[ポー・シリーズ]
ポーの一族 [ポー・シリーズ]★メリーベルの幻想的ダンスシーン
とってもしあわせモトちゃん
ミーア★主人公のミーアはモダンダンスを踊る設定。扉ではレオタードで踊っている。
ハワードさんの新聞広告★初期ミュージカル三部作?
みんなでお茶を●[精霊狩りシリーズ]だから踊る・・というほどこの作品は踊っていないかな。
ユニコーンの夢
トーマの心臓
まんがABC
プシキャット・プシキャット
エヴァンズの遺書[ポー・シリーズ]
この娘うります!★ミュージカル風コメディ作品の集大成。ドミニクの足は軽々と上がる。
ペニーレイン[ポー・シリーズ]
温室
アロイス
リデル・森の中[ポー・シリーズ]
ランプトンは語る[ポー・シリーズ]
ピカデリー7時[ポー・シリーズ]
11人いる!
なつのうみ
とってもしあわせモトちゃん
はるかな国の花や小鳥[ポー・シリーズ]
赤ッ毛のいとこ
ホームズの帽子[ポー・シリーズ]
ヴィオリータ 一週間[ポー・シリーズ]
アメリカン・パイ
花と光の中
ドドおばさんがやってくる
エディス[ポー・シリーズ]
食肉花
ヨーロッパみぎひだり
泣き虫クラウン★ピエロと踊り子の絵物語
追憶
パリの街角で―
ヨーロッパ便り★パリ★
ヨーロッパ便り〜スペイン〜
★フラメンコダンサーのこと
万華鏡
水色エプロンの女の子
紅茶の話
ドリーム・イン・パリ
湖畔にて
東の地平・西の永遠
萩尾望都のまんがABC
影のない森
霧笛[原作:ブラッドベリ]
みずうみ[原作:ブラッドベリ]
少女ろまん
スペース・ストリート
十年目の毬絵
マリーン
桜の木の下
百億の昼と千億の夜
なつのおもいで
あしたね
ファンタスティックスペース
ゴールデンライラック
ウは宇宙船のウ[原作:ブラッドベリ]
ぼくの地下室へおいで[原作:ブラッドベリ]
スター・レッド
宇宙船乗組員[原作:ブラッドベリ]
泣きさけぶ女の人[原作:ブラッドベリ]
左ききのイザン
びっくり箱[原作:ブラッドベリ]
集会[原作:ブラッドベリ]
恐るべき子どもたち
フレア・スター・ペティコート
むかし語りの終わり
月蝕
ラーギニー
アムール
訪問者
いたずららくがき
メッシュ
人生の美酒
酔夢
ルージュ [メッシュ]
金曜の夜の集会
銀の三角
ブラン [メッシュ]
ビートルズのころ
春の骨 [メッシュ]
A-A’
モンマルトル [メッシュ]
革命 [メッシュ]
25人のジュリー
Plan de Paris
愛の降りつむ
耳をかたむけて [メッシュ]
一角獣狩り
千の矢 [メッシュ]
MOVEMENT I [メッシュ]★まるでモダンバレエを見るような作品。
苦手な人種 [メッシュ]
モザイク・ラセン
こもれび
謝肉祭 [メッシュ]
近況ノート
MOVEMENT II [メッシュ]
城
デクノボウ
MOVEMENT III [メッシュ]
4/4 カトルカース
半神
エッグ・スタンド
狩人は眠らない―幻境にて
シュールな愛のリアルな死 [メッシュ]
X+Y
コスチューム・ロマン
偽王
ハーバル・ビューティ
天使の擬態
船
砂漠の幻影
わたしのデビュー時代
スロー・ダウン
神殿の少女
ばらの花びん
フィジカル!85★萩尾さんのダンスに対する愛情がここにあかされた?
君は美しい瞳
友人K
マージナル
(マージナル/連載)
(マージナル/連載)
完全犯罪〈フェアリー〉★萩尾VS甲斐バンド。コラボレーション本格ミュージカル?
フラワー・フェスティバル★バレエ漫画!!
(フラワー・フェスティバル/連載)
海のアリア
海賊と姫君★バレエ漫画!!
青い鳥★バレエ漫画!!
(海のアリア/連載)
ローマへの道★バレエ漫画!!
真夏の夜の惑星(プラネット)
(海のアリア/連載)
ロットバルト★バレエ漫画!!
ジュリエットの恋人★バレエ漫画!!
感謝知らずの男★バレエ漫画!!
オオカミと三匹の子ブタ★バレエ漫画!!
カタルシス
狂おしい月星★バレエ漫画!!
イグアナの娘
残酷な神が支配する/連載
あぶないアズにいちゃん[あぶない丘の家]
あぶないシンデレラ[あぶない丘の家]
(残酷な神が支配する/連載)
あぶない壇ノ浦[あぶない丘の家]
(残酷な神が支配する/連載)
あぶない未来少年[あぶない丘の家]
午後の日差し
学校へ行くクスリ
(残酷な神が支配する/連載)
(残酷な神が支配する/連載)
(残酷な神が支配する/連載)
天使のはなし
(残酷な神が支配する/連載)
帰ってくる子
(残酷な神が支配する/連載)
天使をさがして
(残酷な神が支配する/連載)
●主要登場人物マージョリーはバレエを踊る少女という設定だったが
2000年1月(プチフラワー3月号)にようやくバレエシーンが登場。
◎30年間の主な作品リストにもなっています。
作品リストは
「萩尾望都作品目録」
(URL:http://www.hagiomoto.net/)
及び
@nifty/コミックフォーラム作家・作品館(FCOMICA)8番会議室「萩尾望都」#1706,1707,1729,1730の
有里さん作成“萩尾望都作品一覧”を参考にさせていただきました。
資料作成:小西優里 / 作成日:1999/10/1
更新2007/10/19(81年の作品発表順を訂正)、2010/7/17(91-92年の作品発表順を訂正)